秋刀魚の味/小津安二郎

小津作品をまともに見るのが実は初めて、という常識の無い私なのですが、この作品は非常に素敵でした。世間の映画好きの皆さまがしているような素晴らしい批評はできそうにないのですが、それでもよく「小津作品は緻密な計算によって成り立っている」ということを聞いていたので意識して見たつもりです(大してわかったことはなかったけど)。
それにしても私は、意外と家で映画を見ていると途中で飽きてしまう人なのですが、これは最後まで飽きることなく見ることができて、その時点でもう驚きです。退屈な映画、と人は形容するでしょうが、佐田啓二岡田茉莉子ゴルフクラブについて話している場面とか、岩下志麻が好きな人にはもう既に恋人がいるとわかる場面とか、かつての恩師「ひょうたん」の悲哀など、非常に緊張感をもって見れる場面が多かったです。ああ、このなんでもない割に感じてしまう緊張感が小津作品なのかなあ、と思ったり。それはあの、独特の棒読み台詞も一役買ってのことだと感じたんですが。以前、松尾スズキが「上手じゃなくて若干下手と視聴者が思うくらいの拙さが、緊張感を生み、視線を集める」というようなことを言っていましたが、松尾さんが冗談で言ったか本気で言ったか知りませんが私はそれは真理だと思いますし、そのようなテンポを映画から感じることが出来ました。けれども一辺倒な台詞回しにも関わらず感情の変化などを感じることが出来るから、演出の気の効き具合に感動致しました。
人物を前から撮るショットの多用は、ヴィンセント・ギャロの「バッファロー'66」を思い出すのですが、やっぱり彼は小津から影響を受けているのでしょうか?あまりにあまりで、やっぱりあれは彼をリスペクトしてのことなのかな、と今になって思います。
これだけ私が楽しめた「秋刀魚の味」なのですけど、小津作品の中では評価が低い方らしいです。ウソォ!って感じです。